「田舎の若者、上京して凄腕ナンパ師になる」【第6夜 ナンパ競技編】

ナンパを始めれば、人生が変わるような気がしていた。これはどこにでもいる若者の、ちょっと変わった人生の話である。※ちなみにこれはフィクションである。

前回までの話。

「田舎の若者、上京して凄腕ナンパ師になる」【第5夜 徒党のナンパ編】

 

職探しもロクにせず、ナンパに明け暮れていた若者であったが、また1つ新たな出会いがあった。SHOと名乗るナンパ師だった。

 

彼とは渋谷のクラブで出会った。

 

若者が1人でクラブに行った際に、同じく1人で来ていたSHOに、若者が声を掛けたのである。

 

SHOは、20代前半の男だったが、彼はナンパスタイルもルックスも、全てがナンパ師というにふさわしいレベルの男だった。SHOは、男の若者から見てもイケメンだったし、SHOとコンビでクラブナンパした際には、若者は、目の前で女の子の目がキラキラと輝くのを感じた。

 

「来月ナンパトーナメントやるんだけど出ない?」

こんな誘いをSHOから受けた時には、単純に、そんなものがあるのかという驚きが大きかった。

「ナンパトーナメント?」

「そうそう、ナンパの実力を競い合うの。今回はチームでやるんだ。3人1組でチームを組んで2日間にわたって即数を競うの。3人でグループの女の子をナンパするのもいいし、3人別々でやってもいい。それは自由だよ。参加費は一応あるんだけど、上位になったら景品もあるよ。参加資格は、ナンパ塾の講師じゃないこと、それくらいかな。あっ、日時は〇日と〇日、〇日の19時スタートで、〇日の21時まで。ちなみに金曜日と土曜日」

若者は、まだナンパの実力を競い合えるような場所にいるとは、若者自身思わなかったが、SHOの押しもあって、参加の意思表示をした。

「チームメンバーはいるのか?」と聞かれハッとなった。

 

SHOは、彼と組もうと言っているのではないらしかった。

 

(まぁなんとかなるだろ。ロックさんと木島さんに聞いてみよう)

「まぁなんとかするよ」と

若者は答えた。

 

ロックと木島にラインを送った。

ロックからはすぐに、

おもしろそう。

やってやろうぜ。

と快諾の返事が来た。

 

木島からは、

私はそういう競い合うのはちょっと~

と断りの返事が来た。

 

チームのメンバーが足りなかった。

 

若者は、矢野にラインを送った。

矢野とは、東京に来て以来一度も会っていなかった。

 

OKです。

参加します。

 

これでチームのメンバーがそろった。

 

ロックと矢野は面識がなかったため、ナンパトーナメント前に一度、3人で会うことになった。

 

「矢野さんお久しぶりです」

「もう新生活慣れましたか?」

「ナンパばっかりしてます」

「さすがですw」

 

話し合いの結果、矢野はソロナンパ、若者とロックがコンビナンパをメインにやることになった。

 

「場所はどこにしましょう?」

若者が2人に向けて言った。

「渋谷がいいと思う」

ロックはいつでも渋谷にこだわっていた。

「金土っすよね?俺は金曜の夜は六本木でやりたいっすね」

矢野が言った。

「まぁ場所はどこでもいいんでしょ?すぐ移動もできるし、それぞれ得意な場所もあるだろうから、連絡取り合って、反応いい場所に移動するんでいいんじゃない?反応いいっていう判断基準は曖昧だけどw」

ロックは言った。

 

「そうですね。それと実際みなさん自信あります?」

「俺は1即はいけるんじゃないかな~w」

ロックは言った。

「俺は1即いければ奇跡的って捉えてもらえると有難いですw」

矢野は言った。

「自分もですw」

 

そしてナンパトーナメントの日がやってきた。

 

即報告は、Twitter上で行うことになっていた。矢野は頑なにTwitterへの登録を拒んだため、矢野が結果を出した場合には、矢野から若者へライン、若者がTwitter上で成果報告という面倒な手順を踏むことになった。今回はチーム戦なので、これで問題ないらしい。

 

時刻は金曜日の19時。

天気は快晴だった。

 

Twitter上の至る所で、

「さぁ、ゲームの始まりだ」という短い言葉が囁かれた。

 

ロックは仕事帰りの参加のため、19時には間に合わず、若者は先に、渋谷に降り立ってナンパを始めることにした。

(ロックさんが来る前に1即達成出来たら…なんて夢のまた夢か)

 

「こんばんは~」

若者のゲームは始まった。

 

その頃、矢野は、銀座に降り立ってナンパを開始していた。

「おつかれ~」

それぞれのゲームは始まっていた。

 

開始50分ほどで、SHOのチームメンバーの1人が「専門学生 即」と報告を入れた。彼は、即を大得意とするナンパ師だった。

 

若者は矢野にラインを送った。

 

もう結果出した人いますよ。

早すぎません?

勝てる気がしませんw

 

すぐに矢野から返事が来た。

 

マジっすか。

同じ気持ちですw

そもそも声掛けて数十分で

ホテル行くスキル持ち合わせてないですw

 

若者は少し不安になった。

このまま0で終わるのではないかと。

 

(だけどまだ始まったばかりだ)

しかしそんな若者の思いとは裏腹に、金曜日の夜の渋谷は無視が多かった。

若者は早くも、心が折れそうになっていた。

 

そのタイミングでロックから連絡があった。

「遅れてごめ~ん。渋谷着いた」

「ロックさ~ん」

若者は、普段は頼りなく見えるロックに、これほど安心感を感じたことはなかった。

 

ロックは若者と会ってすぐに、コンビニに酒を買いに行った。

 

「いや~、今日は仕事のストレスをナンパにぶつけるぞ」

若者は少し、ロックのことをたくましく感じた。

ロックはコンビニの前で、いつものごとく勢いよく酒を飲み、すぐにナンパを始めた。

「こんばんは~。花金だよ、花金。今日つまんないテレビしかやってないっしょ?ちょっと飲んでいこうよ~」

ロックにエンジンがかかった。

「次あの子いこう、あの子」

 

声を掛け続けること10グループ目、ようやく好意的な反応を引き出すことが出来た。時刻は21時だった。

 

連れ出したのは、飲んだ帰りの女子大生2人組だった。少し派手目な金髪の女の子と、109のショップ店員のような服装の茶髪ロングの女の子だった。

(よし、これで即できたら一気にいいところまでいける)

 

若者は、個室居酒屋に入りたいと考えたが、ロックの、「ここでいいっしょ?」という言葉で、安さだけが売りの大衆居酒屋に入ることになった。

 

(ここで、大丈夫だろうか?)

ロックの戦略では、相手が2人組の場合は、セパレートが必要になるため、カラオケなどに行く必要があるとのことだった。そのため、最初はあくまでも警戒心を解くだけに留めるため、場所はどこでもいいということだった。

 

居酒屋に足を踏み入れた瞬間若者は、仕事帰りのサラリーマンやら、大学のサークル団体らしき人たちの、声量に圧倒された。

 

「こちらへどうぞ」と言って、通され席は、店内の中心にある4人掛けの席だった。

 

「おつかれ~」

4人はグラスを合わせた。

 

 

若者とロックのゲームが始まった。

 

金髪の女の子はえり。

茶髪ロングの女の子はみかという名前だった。

 

「君ら学生でしょ?何年生?」

ロックは彼女たちに質問した。

「3年だけど~」

えりは答えた。

「派手じゃない?wそれじゃ絶対就活うまくいかないよw」

「就活の時はちゃんとするし~」

えりは言った。

「はい、出た~。就活の時だけ猫被る奴~w」

「いや、皆そうじゃんwねぇ?」

りかは、みかに同意を求めた。

「うん、そうそう。だって先輩ヤバかったよねwサークルの先輩なんだけど、いつも化粧、髪型ばっちりだったんだけど、髪なんかキャバ嬢まではいかないけど、ちょっと盛ってるんかんじで、それが、就活の時期になって、面接あったからって、スーツでサークル来た時、一瞬誰かわかんなかったもんwあっ、このサークル興味ある方ですか?って聞きそうになったもんw」

みかは言った。

「あったw」と言って、りかは大きな声で笑った。

「それは言い過ぎでしょ~w」

若者は言った。

「女はすぐ盛るからなw」

ロックは言った。

「話盛るのは男じゃん」

りかは、どちらかと言うと、みかに聞いてほしそうに、彼女のほうチラッと見て言った。

「ねぇ聞いて、この前クラブで会った男なんだけどね、クラブでは、俺社長なんだーとか言ってたんだけどさ、よくよく聞いてみたら、無職で、ただブログでちょっと稼いでるってだけだったんだよねwそれ社長じゃねーわ。会社ねぇじゃねーかって思ったもん。言わなかったけど」

「言わなかったんだ、優しいじゃなんw」

みかは言った。

「それはそいつだけだろw男がってことじゃなくて」

ロックは言った。

若者は、「そうですよね~」と小さな声で言った。

「え~男ってそういう人多いよ。自慢話とか多いし。自慢話ほど聞いててめんどくさいものないよね?リアクションめんどくさいし、キャバクラでやれって話」

りかは言った。

「わかる、わかる。真顔で、すご~いとか言ったりするよね。好きな人だったら違うけど」

 

「そういえば君ら彼氏いるの?」

ロックは2人に質問した。

「彼氏?私はいないよ~。みかは最近別れんたんだよね~?」

りかはみかに同意を求めた。

「うん。一週間前に」

みかは言った。

「え~、落ち込んでる?」

ロックは言った。

若者は、「そうなんだ~」とだけ言った。

「いや、そんなに。3カ月くらいだから」

みかは言った。

「3ヵ月って早くない?」

若者は単純に驚きを口に出した。

「え~そうでもないよ。私の友達は3日で別れたし。先がないと思ってる人と付き合ってても無駄じゃない?」

みかは言った。

「まぁ」

若者は言った。

 

金曜日の夜ということもあって、2時間制だった。

そして、2時間はあっという間だった。

「じゃあ出るか~」

ロックは独り言のように言った。

 

時刻は23時を少し過ぎていた。

 

4人は外に出て、

そのタイミングでロックは言った。

「まだ帰るの早いっしょ?」

「歌いたくない?カラオケ行こ」

「え~カラオケ?今から?」

りかは言った。

その後、「どうする~」とみかに言った。

「ごめん、私明日バイトなんだ」

みかは言った。

若者は、まずいっと思った。

大事なことを聞いておくのを忘れた。

 

「終電を逃させることに成功したらやれると考えては絶対にいけない。相手の家が歩いて帰れる距離かもしれないし、タクシーで帰るつもりかもしれないし、連れが迎えに来るかもしれない。自分の電車の終電がなくなったと思っていたら、相手の電車の終電はまだあったということもあり得る。自分がそうだから相手もそうだろうと、先入観で目の前の人を決めつけてはいけない。成り行きに任せていると、最後にどんでん返しをくらう可能性がある。俺は何度もそれで泣いた。その結果たどり着いたのは、成果というのは、いつでも取るべくして取るものだということ。大事なことは早い段階で確認しておかなければならない。損切りをするという意味でも、グダグダと終電間際まで過ごしてはいけない。そういうやり方では、「あっ」と思った時には、もう手遅れになっている」

これは矢野からの教えだった。

 

りかとみかとは、ライン交換をして別れた。

 

 

しかし、まだ勝負は終わっていなかった。

 

渋谷にはまだ人が溢れていた。

 

その後、若者とロックは別々にナンパした。

 

時刻は24時をまわって、

今日はダメそう。

明日に備えて帰るわ。

というラインがロックから届いた。

 

若者は矢野にラインを送った。

どうですか?

 

矢野からの返事はすぐに届いた。

何もなしです。

 

今回のナンパトーナメントのルールでは、クラブナンパでの即も結果に含めることができた。そこで、若者は矢野と六本木で合流し、朝までクラブナンパを行うことにした。

 

クラブナンパにエネルギーを使えば、翌日のストリートナンパのエネルギーも使い果たしてしまう可能性もある。それでも、金曜日のクラブといえば、即できるチャンスはかなり大きい。若者は、クラブナンパに賭けることにした。

 

 

しかし、物事はそううまくはいかなかった。

 

連絡先の交換こそ簡単にできるものの、その先の、連れ出しは全くできなかった。

 

ヘトヘトになった若者は、重い足取りで帰路に着いた。

 

眠りに落ちる前に、参加者の結果報告を確認すると、トップのチームは8即、1即もしていないのは、若者のチームだけだった。

 

若者は、倒れこむように眠りに落ちた。

 

目が覚めたのは、12時になってからだった。

 

怠い身体に、スポーツドリンクを流し込みながら、Twitterを確認する。

 

若者が眠った後に、まだナンパを続け成果を出している人もいた。彼は朝方、クラブから帰る人をターゲットにナンパするのが得意らしい。

 

昼の12時、もうナンパを開始している人もいた。

 

若者のチームメンバーは、誰も結果を出しておらず、まだ誰も、街には出ていなかった。

若者は焦っていた。

 

若者は、怠い身体にムチを打って、街に出た。

時刻は15時だった。

若者は、ロックと矢野に連絡を入れた。

 

ロックは、急用が入ったため、今日はナンパできないということだった。

矢野は、病院に行く予定があるので、18時から始めますということだった。

 

若者は少しイラだった。

(何がチームだ。結局やる気があるのは自分だけじゃないか)

 

タイムリミットの21時まで、若者は渋谷でナンパを続けた。

声を掛け、断られ、

声を掛け、断られ、

誰かの成果報告に焦りを感じ、

そしてまた断られるという悪循環だった。

 

しかし、奇跡は起きた。

 

時刻は17時。

 

歩くスピードが他の人と比較して明らかに遅い女の子、ファッションも少しズレているなと若者は感じた。髪は茶髪のボブカットだったが、根本がプリン状態だった。トボトボと歩く彼女に声を掛けた瞬間、彼女こそが、いわゆる即系と呼ばれる存在なのだなと若者は理解した。

 

「こんにちは」

彼女からの反応はなかった。

でも、意図的に無視しているという風でもなかった。

彼女はただ、「こんにちは」への返答が、「こんにちは」なのだということを知らないだけなのかもしれないと、若者はなぜか思った。なぜって、彼女は若者の、「何してるの?」という質問に、間髪入れずに「べつに」と答えたのだから。

 

彼女は、若者のほうをチラッと見ただけで、その確認動作はまるで、今話しかけてきている人間が、かっこいいか?怪しくないか?ということではなく、人間であるか?だけを確認するような、ぞんな一瞬の視認だった。

「よかったらカラオケ行きませんか?」

「いいよ」

ドッキリか何かの企画なんじゃないかと勘繰りたくなるほど、あっけなく彼女は、若者のオファーを受け入れた。

カラオケに入って、

若者は、まず1曲歌った。

彼女は、「この曲知ってる」と少し微笑んだ。

若者は、彼女の笑顔を見て、少しホッとした。

次に彼女が歌って、それですぐに、若者は彼女にキスをした。

「んっ」

彼女はとくに嫌がる様子もなく、若者のキスを受け入れた。

 

(これはいける)

(ついに1即だ)

若者は、すぐにカラオケを出て、近くのホテルで彼女とSEXをした。

キスをして、胸を触って、性器を濡らして、挿入して、すぐに果てた。

 

若者は、シャワーを浴びるよりも早く、Twitterで成果報告をしたくてたまらなかった。

 

だが、「即」と書こうとして気付いた。

彼女が【誰】なのかを、まだ知らないことに。

 

こうして、

ナンパトーナメントは終わりを迎えた。

結果、若者のチームは最下位だった。

 

結果発表は、新宿の居酒屋で行われた。

矢野は参加しなかった。

 

「ナイスガッツだよ。あの時間で即決めるなんて」

SHOは若者に言った。

 

「いや、たまたまだよ」

若者は言った。

「またまた~。つるむ人まちがえてるんじゃな~い?」

「・・・・・・」

 

(SHOは今回3即を決めている)

(それに比べて、ロックさんや矢野さんは0即だ)

(木島さんに至っては、参加すらしていない)

 

(だけど、僕は1即を決めた。結果を出したんだ)

(自分は、彼らとは違う…)

 

この日を境に、若者はSHOのグループと共に行動するようになった。SHOのグループに属するナンパ師は、徹底して即にこだわっていた。彼らの間で力の優勢を決めるのは、月に何即したか?これまでに何即したか?だった。

 

若者は、SHOの通っている美容院を紹介され、そこで髪を切るようになった。SHOにヘアセットも教わった。女受けのする洋服屋も紹介してもらい、大量の服を買った。それから、ジムに通い、日サロで肌を焼いた。

 

「やっぱかっこいいじゃん!もったいないと思ってたんだよ」

SHOはそう言って褒めてくれた。

 

褒めてくれたのはSHOだけじゃなかった。

「めっちゃタイプっ」

「好きになっちゃたかも」

 

見た目を変え、ナンパスタイルを変え、若者のタイプとは少し違ったが、狙う層を変えた途端、それまでどこか遠くにあったはずのSEXが、ちょっと手を伸ばせば簡単に届くものになった。

 

「さぁ、ゲームの始まりだ」

 

若者は即を量産した。

 

 

そして、若者の心は蝕まれていった。

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