「田舎の若者、上京して凄腕ナンパ師になる」【第7夜 ノンインスタント編】

ナンパ物語

ナンパを始めれば、人生が変わるような気がしていた。これはどこにでもいる若者の、ちょっと変わった人生の話である。※ちなみにこれはフィクションである。

前回までの話。

「田舎の若者、上京して凄腕ナンパ師になる」【第6夜 ナンパ競技編】

 

もっと、もっと、若者はもっとを求めて街中を彷徨い続けた。

 

もっとSEXをすれば何かが見えるかもしれない。もっとかわいい女の子とSEXすれば何かが変わるかもしれない。

 

誰かがこのルーティンが使えるらしいと言えば、すぐに新しい女の子に声を掛けそれを試した。街中で声を掛けた見知らぬ女の子と出会って数十分で身体の関係になる。これは若者にとってはもはや、驚くべきことではなかった。

 

 

若者のナンパの腕は日々上がり続けた。

 

しかし同時に、ある感情が若者を苦しめるようになった。

 

(なぜ、満たされないんだろう?)

 

(どれだけSEXしても、なぜ満たされないんだろう?)

 

若者はラブホテルの鏡にうつる若者自身を、どこか獣のようだと感じるようになったまるで何かに取りつかれたように、ただ腰を振っているだけだと若者は感じた。

 

(ナンパって何だろう?)

(人生って何だろう?)

 

(自分はこんなことがしたくて上京したんだろうか?)

 

 

若者は、わからなくなっていた。

 

なぜ人はナンパするのだろう?

 

それでも若者は、また街に出た。わからないままナンパをし続けた。

 

「どうも~。今日めっちゃ暑くない?そこのカフェでコーヒー飲もうよ」

 

わからないまま、声を掛け続けた。

 

「ちょっとだけならいいですよ~」

女は答えた。

 

このちょっとが、本当にちょっとだったことは一度だってなかった。

 

2時間後には、若者と女はホテルにいた。

 

行為の間中ずっと、若者は女の顔でも身体でもなく、壁にかけてある絵を見ていた。

 

何の絵かはわからなかった。

射精感がこみあげてきた。

 

「ねぇねぇまた会える?」

女は言った。

「うん。それよりさ、終電大丈夫?」

「ウソだ」

「ウソって何が?」

「もう会う気なんかないんでしょ?どうせ誰でもいいと思ってたんでしょ?」

「いやいや、そんなこと思ってないって。君だから声掛けたんだって、さっきも言ったじゃん?」

「だってさ、ずっと他のこと考えてたでしょ?」

 

「女はゲームの駒じゃないんだよ?」

「・・・・・・」

 

若者は、久々にロックに会った。

ロックから、

久々に会わないか?

というラインが来たからだ。

 

ナンパトーナメント以来、若者の方から、ロックに一緒にナンパしようと言うことはなくなっていた。何度かロックから誘われてナンパしたのだが、ロックの方でも、若者の変わりようを見て距離を置くようになっていた。

 

「久しぶり~。ブログ読んでるよ。相変わらすごいね~。立派な凄腕ナンパ師じゃん」

ロックは開口一番そう言った。

「いやいや、そんなことないですよwロックさんも元気そうでよかったです」

 

それから若者とロックは居酒屋で話した。

 

「木島ちゃんから何か話聞いている?」

ロックは神妙な面持ちで言った。

「えっ?いや、木島さんとは最近全然連絡とってなくて」

若者は言った。

「そっか。実はな、まぁべつに言っちゃいけないってことでもないから言うけど、木島ちゃんさ、会社の社員証使ってナンパしてたじゃん?たまたま声掛けた女の子の友人が、木島ちゃんの会社の子だったらしくてさ、木島ちゃんが社員証使ってナンパしてるってのが社内で噂になっちゃってるらしいんだわ。まぁそれでクビになるとかはないんだろうけど、木島ちゃん、真面目一筋で生きてきたような人間じゃん?余計みんなビックリしちゃったらしくてさ」

「いや、あれさ、やってみれば?って言い出したの俺じゃん?木島ちゃんは、俺のせいじゃないって言うんだけどさ、何か悪いなって思ってて…」

「いや、だから…。今日それだけを話したかったってわけでもないんだけど、3人で飲んだ仲だからさ、なんかうまく説明できないけど」

 

 

若者は忘れていた。

ナンパには、リスクがあるということを。

木島の件は極端な例かもしれないが、サラリーマンであるならば、会社にバレるというリスクは誰にでもある。バレるだけなら普段のキャラによってはダメージはないかもしれない。でもそれでも、何か事件が起きれば会社をクビになることもある。

 

その後、若者とロックはいつもなら居酒屋で飲んだ後は必ずナンパするのだが、この日はナンパしなかった。

 

「俺さあ、木島ちゃんのことが関係してるのかわかんないけど、最近、ますます素面でナンパできなくなってさ。前はちょっと飲んで、ほろ酔いくらいのかんじで声掛けてたんだけど、けっこう酔わないと声掛けられなくなっちゃってさ。どんどん酒の量が増えてて、このままじゃヤバいんじゃないかって思うレベルwナンパやめようかなって思うもんw」

駅までの道のりでロックは言った。

 

「今日はありがとうございます」

若者は言った。

「お礼を言うのは俺の方だよ。また一緒にナンパしよう」

 

翌日の朝、若者のラインにメッセージがあった。

 

こんにちは。

お久しぶりです。

最近やっと落ち着きました。

よかったら近いうちに飲みにでも行きませんか?

まりあからだたった。

「田舎の若者、上京して凄腕ナンパ師になる」【第5夜 徒党のナンパ編】

ロックとコンビナンパした際に、ライン交換した、彼氏がいると言っていた茶髪ロングパーマの女の子。

 

えっ?と若者は思った。

まりあは、上京したばかりの頃、ロックと一緒にナンパした際に、まぐれでライン交換できた女の子だった。

ライン交換した後、まりあには彼氏がいると知っていたのだが、

一応ラインのやりとりを何度か交わした。

その後、ロックの「彼氏いる奴はどうせ喧嘩するからむしろチャンス」というアドバイスに従って、

飲みに行きませんか?

というメッセージを送ったのだが、

ごめんなさい

最近、転職したばかりで忙しくて

と断られてしまったのだ。

 

それ以来連絡していなかった。

 

それが今になって彼女のほうからラインが来たのだ。

 

ナンパがうまくなってからの若者の携帯には、いつだって誰かしらのメッセージが飛んできていた。

 

今から会える?と送れば、

うん

と喜んで返事をくれる女の子もいた。

 

でもそれはみんな、若者自身が「自分は変わった」と思うほどに若者が変わってから出会った人たちで、そう言う意味ではまりあのような女の子は貴重だった。それにしてもモテ期に入るとこんなサプライズがあったりする。

 

こんにちは

お久しぶりです。

連絡してくれてありがとう。

ぜひ飲みに行きましょう。

 

簡単なやりとりでその日は決まった。

 

「久しぶり~」

「久しぶり~」

若者とまりあは、金曜日の仕事帰りに渋谷で会った。

 

まりあは、出会った時のように、若者好みのかわいい女の子だった。

 

身長は155cmくらい、二重のパッチリした目は、少したれ目で、守ってあげたいと思わせるような雰囲気を醸し出していた。唇には女らしい赤いリップが塗られていた。洋服は白を基調としたオフィスカジュアルで、会社でもモテるんだろうなと、若者は思った。変わったことと言えば、髪型が変わっていた。前回会った時には茶髪のロングにパーマをかけていたが、今回は、パーマが取れていて、髪も少し短くなり、色も少し暗くなっていた。

「すごい雰囲気変わったよね?」

まりあは若者を見て言った。

「そうかもねw」

出会った時も、ラインでやり取りしている時も、2人は敬語で話していたが、実際に会ったら、自然と敬語は消えていた。

「うん、だって待ち合わせの時1回素通りしようかと思ったもんw」

「それは大袈裟でしょ~w」

「いや、ほんとにw」

「でもかっこよくなったと思うw」

「なにそれ~w告白?w」

「違うよ~」

 

「そういえばまりあちゃん、彼氏いるって言ってなかったっけ?」

「あ~、うん、今の会社に転職してすぐ別れたんだ~」

「どれくらい付き合ってたの?」

「う~ん、3年くらいかな」

「3年か~。結婚とか考えてた?」

「まぁね。女は男と違って、早く結婚したいって思うものだから。でもずっとこの人と暮らしてけるかって考えたら、それはちょっとってなったなぁw顔はかっこよかったんだけどね、男らしくなかったっていうかw大学の時のサークルの先輩なんだけど」

「女の人は大人になると、男に求めるものって変わるよね」

「うん、かっこいいだけで許されるのは学生までなんじゃないかな。まぁ全く顔を重視しなくなるわけじゃないし、本当にタイプの人だったらまた違うんだろうけど、男の人にはやっぱり、ちゃんと働いてほしいし、守ってくれるような強い人がいいなって思うな。強いって言っても、もちろん喧嘩が強いとかじゃないよ?w」

 

「そういえば何でラインくれたの?」

「えっ?う~ん、わかんないよ、なんとなく、ラインの過去のメッセージとか消したりしてたらたまたま見つけて、なんか…、なんだろうねw」

まりあはそう言って、カシスオレンジを1口飲んだ。

「え~よくわかんないよ。でもすごくうれしかった。まりあちゃんと出会ったのって、まだ東京来たばっかりで何もわからない時で、なんか変な話、すごい懐かしいっていうか、安心するっていうか、いや、全然そんな前の話ではないんだけどね」

「つい最近のことじゃ~ん。でも私もこうやってまた会えてよかった」

 

 

居酒屋に入ってから2時間が経っていた。

 

若者はまりあにキスをした。

ここは個室居酒屋で、

視界には誰もいなかった。

 

その後居酒屋を出て、まりあと一晩を過ごした。

 

 

「付き合いたい」

SEXの後、まりあは言った。

「付き合おう」

若者は言った。

 

若者は、ここ最近失っていた感情を取り戻した。

SEXが気持ちいいと感じたのだ。

 

若者は彼女ができたという報告も兼ねて、矢野に近況を訊ねようとラインを送った。矢野のブログの更新がここ最近止まっていたのだ。矢野にラインを送ると、

もしかして渋谷にいたりします?

とメッセージが届いた。

 

いつものごとくいますよw

でもナンパはしてないですけどね。

どうしたんですか?

 

今ちょっと用事で渋谷来てるんすよ。

よかったら会って話しましょう。

 

若者は、矢野と始めて会ったカフェで会うことになった。

 

 

15分ほどで、矢野はやってきた。

 

「実は彼女できたんですよ」

「マジっすか。よかったじゃないですか。ナンパで出会った子ですか?」

「はい、東京来たばかりの頃にナンパした子です。全然連絡してなかったんですけど、久々に連絡来て、会って、付き合うことになりました。ナンパする前だったら話すのにも緊張するくらいかわいい子です」

「羨ましい限りです」

「それでナンパどうしようかなって。最近モチベーションもあまり上がらなくて。ナンパしてGETしても、つまらないというか。自分でもよくわからないんですけど」

「つまらない?でもブログ読みましたけど、めっちゃ成果出しててすごいっすね」

「あぁ、まぁそれはその。でも成果を出せば出すほどつまらないと感じるというか、Twitterでまわりの人たちに、すごいだろ?ってアピールするためだけにGETしているような気もするんですよ。こんなこと矢野さんにしか話せないですけど」

「それはあれじゃないですか。インスタント症候群じゃないっすか?」

「何ですかそのインスタント症候群って?」

「いや、べつにそんな正式用語があるわけじゃないんだけどね」

「俺は、声掛けてSEXして、はいじゃあね~みたいなSEXのことを、インスタントなSEXって呼んでるんだ。カップ麺みたいな。100円200円で買えて、お湯を注いで3分で食べれる。めっちゃ手軽ってやつ」

「でも手軽だけどさ、そういうのって、なんかその分満足感が低いじゃないですか?」

「それに対して、べつにラーメンじゃなくてもいいんだけど、1万円くらいするコースの料理ってさ、めっちゃ満足感高いじゃないですか?一庶民がそんなに頻繁に食べれるわけじゃないし、ちょっと高いもの食べる時って、何かを我慢したり、給料日だったりするわけじゃないですか?そういう我慢もまた、満足感を高めるのに必要だったり。言ってることよくわかんないかもしれないですけど」

「いや、なんとなくわかりますよ」

「ナンパで成果を出すのが簡単って言いたいわけじゃないんですけど、人によっては簡単に感じるし、簡単なやり方もある。でも簡単に手に入れたものって、大切にできないじゃないですか。SEXが悪いことだとは思わないんすけど、心のないSEXって、自分を削るようなものなんじゃないかって思うんですよ。なんか空しいじゃないですか?」

「そうですね。それはわかります」

 

「矢野さんにもそんな時期はありましたか?」

「はい、俺もマジでナンパつまんないなって思ってた時期がありました。成果を出しても全くうれしくないんすよw」

「でもある日、街中で見た光景を見て、あぁこれが原因だったんだって思ったんですよ」

「街中でナンパしている人見てたんですけど、その人がめちゃくちゃ美人に声掛けてたんですよ。まぁよくある光景ですけど。それで、まぁ失敗してたんですけど、その時思い出したんですよね、俺がナンパをやっているのって、女の子とヤルことじゃなくて、めちゃくちゃタイプの子と出会うってことだったなって」

「突発的な性欲や、自己顕示欲から、とりあえず誰でもいいからって、即なんかしたところで、楽しくもなんともないって気付いたんすよ。それで、ノンインスタントのナンパをするようになったんすよ」

「即を捨てたってことですか?」

「いや、ナンパをやっている限り、即そのものは捨てることはできないですよ。だって即はナンパのロマンなのだから。捨てるのは、妥協したSEXですよ」

 

「今日はありがとうございます」

「こちらこそどうもっす」

若者と矢野は駅前で別れた。

 

この日から若者は、ノンインスタントを指針にナンパをするようになった。

 

しかし、もう以前のようにナンパに出ることはなかった。

 

まりあと付き合ってからは、2度、SHOに誘われてナンパしただけだった。

 

それから、貯金と失業保険で生活していた若者であったが、まりあと付き合うようになってから本格的に転職活動に身を入れ、IT企業に転職した。

 

若者は満たされていた。

 

そしてもはやナンパをする必要性を見いだせなくなっていた。

 

若者は、矢野のブログに書いてあった一言を思い出した。

「満たされている奴はナンパしない」

 

ナンパを通して、若者の人生はたしかに変わったのだ。