「田舎の若者、上京して凄腕ナンパ師になる」【第5夜 徒党のナンパ編】

ナンパを始めれば、人生が変わるような気がしていた。これはどこにでもいる若者の、ちょっと変わった人生の話である。※ちなみにこれはフィクションである。

前回までの話。

「田舎の若者、上京して凄腕ナンパ師になる」【第4夜 即席デート編】

 

かつては妄想でしかなかったものが、行動を起こすことで、できるかもしれないに変わった。

 

若者は、また1つ、大きな選択をしようとしていた。

上京である。

 

(東京でナンパしたい)

(東京で1人暮らしをしてみたい)

 

若者のこの願望は、日を増すごとに大きくなっていた。

 

それと比例して、普段の仕事が身に入らなくなった。つまらないミスをして、上司に怒鳴られた。まさに、心ここにあらずという風だった。

 

(人生を変える。人生を変えるには、一歩を踏み出す勇気が大事だ)

(たしかにリスクは大きいかもしれない。でもずっと今の職場で、何も起こらないこの場所で生きていくのは嫌だ。貯金だってある程度は貯まっている。何とかなるだろう)

 

若者は、いくつもの悩み相談サイトに目を通し、行動を後押ししてくれそうな本を毎日のように読んだ。どの本にも、失敗は大したことはないと書いてあった。問題なのは失敗することではなく、何もしないことなのだと。

 

何よりも若者はまだ若かった。

まだ、恐れる心を知らなかった。

 

こうして若者は、上京を決意した。

 

それからの若者の行動は早かった。

 

会社に辞表を提出し、1ヶ月後には職を失うことになった。それと並行して、ネットを使って部屋探しを始めた。職探しはしていなかった。失業保険をもらいながら、落ち着いたら探すつもりだった。

 

夏はもうすぐそこだった。

 

上京の朝、若者は、またこれで人生が変わるのだと思った。

 

実のところ、部屋探しは難航した。

東京の家賃相場の高さに驚いたというのと、無職確定、転職先無の状態では、社会的な信用が皆無だった。結局、父親を契約者に立てることで、契約が可能になった。渋谷から1駅の1Rだった。

 

 

部屋は快適とは言い難かった。

 

しかし、「ナンパすること」を優先にした結果の選択だった。

 

(今日からナンパし放題か)

若者は、うれしい反面、不安でいっぱいになった。若者には、まだ、ナンパの何たるかがまるでわかっていなかったのだから。

(すぐに挫折したらどうしよう)

 

若者は、不安な心情をブログで吐露した。

 

実はこの時点までに、若者はブログを書き始めていた。

メイン記事はナンパを想定していたが、ナンパをする機会も少なかったため、日々思ったことを綴る雑記ブログのようになっていた。

矢野に勧められてブログを始めたのだ。

 

「ナンパをするならブログをやったほうがいい。それ自体がモチベーションになるし、詳細に記せば、スランプに陥った時に役に立つ。自分の思いを書くことで頭の整理にもなる。そしてブログでは、成功も失敗も、喜びも恥ずかしさも包み隠さず発信することで、必ずファン(同志)が現れる。熱狂的なファンは、困った時に自分を救ってくれる」

 

こんな経緯でブログを書いていたのだが、さっそく、ブログを通して一つの出会いが生まれた。

ロックというハンドルネームを持つ男だった。

彼はナンパ師で、ブログをやっていた。

ロックは、若者のブログを通して、若者にコンタクトを取った。

 

ついに上京ですね!

ぜひ一緒にナンパしましょう。

 

若者は、上京して初めてのナンパを、ロックと共に行うことにした。

 

土曜日の午後18時に渋谷で待ち合わせた。

「はじめまして」

「どうも、ロックです」

ロックと名乗る男は、30代の会社員の男だった。

イケメンというルックスではない。

黒髪の短髪、ジーンズにTシャツという出で立ちで、身長は175cmくらい、細い目と厚い唇が特徴的だった。年相応と言うか、ルックスを武器にナンパをしている風には見えなかった。しかし、彼のブログには、羨ましいほどの成果報告が並んでいた。

(やっぱりナンパにはルックㇲも年齢も関係ないんだ)

若者は少しうれしくなった。

 

だが、若者も気になっていた点ではあるが、彼には1つ問題があった。

「俺酒飲まないとナンパできないんですよねw」

「ちょっと飲んでもいいですか?」

 

そう、このロックと名乗る男は、アルコールの力を借りないとナンパができなかった。

ちなみに若者は後に聞くことになるのだが、ロックというのは、音楽のジャンルのロックから来たものではなく、お酒の飲み方オン・ザ・ロックから来ている。

 

若者とロックは、コンビニに行き、ロックは缶チューハイを2本、若者はエナジードリンクを買い、外で飲んだ。

「渋谷ってナンパ難しいですか?」

「え~、まぁガンシカは多いね。だけどその分かわいい子が多いよ」

「渋谷って他のナンパ師も多いと思うんですけど、トラブルになったこととかありますか?」

「トラブル?ナンパ師同士のトラブルはあんまりないんじゃない?それよりスカウトね。俺も渋谷でスカウトに怒られたことあるよ。ここでナンパしないでもらえる?って言われてww」

ロックは笑っていたが、若者には笑い事には思えなかった。

「でも大丈夫大丈夫。そんなのめったにないから」

「それより渋谷のギャル系の女はけっこう気が強いから注意なw」

ロックは、体内に入るお酒の量に比例して、笑い声が大きくなっていった。

「ギャル系が好きなんですか?」

「まぁそんなこともないけど、渋谷っつったらねw」

ロックは、若者がエナジードリンクを1本飲み干すよりも早く、缶チューハイを2本飲み干した。

「コンビやりましょ。コンビ」

「コンビナンパですか?やったことないんですよね」

「大丈夫大丈夫」

若者は初めてのコンビナンパに不安になった。

ナンパに不慣れな若者自身が、足を引っ張るのではないかという不安と、しかしそれ以上に、ロックが本当にナンパできるのかが不安だった。

ロックは、先ほどから3度ほど、「あぁコンビニのおでん食いたいな~」と言っていたのだが、ビックリするほど呂律が回っていなかった。若者は、1度目は「おいしいですよね」と返答したものの、2度目は「へへっ」と愛想笑いで済また。それにもかかわらず、再度同じ言葉を行ったことに関しては、もはや正常な思考能力がないと判断せざるを得なかった。

 

「声掛ける子はテキトーに選んでいいですか?」

「はい大丈夫ですよ」

「よし、あの子いこう」

そう言ってロックはすぐに歩き始めた。

若者も後に続いた。

ロックと若者の目線の先には、大学生くらいの茶髪の2人組がいた。

 

「お~い、何してるの~?」

ロックは、2人組の左側から声を掛けたが、2人に聞こえるような大きな声だった。女の子2人組は顔を見合わせ、心底嫌な顔をして、何も言わずに歩くスピードを速めた。若者は2人組の右側についたが、これは失敗だなと判断し、とくに何も言わなかった。

 

しかしロックはまだあきらめていなかった。

「ねぇ2人、かわいいね、一緒に飲もうよ」

2人組は、今度も無反応だった。

 

ロックのほうも、ようやく失敗を受け入れたのか、その場に立ち止まった。

しかし止まったと思ったらすぐに、

「あっ、あの2人組いいじゃない」

と、別の2人組を指さした。

若者は、ロックの気持ちの切り替えの早さに度肝を抜かれた。

 

ロックはすぐに2人組のもとへ向かった。若者は、その場に立ち止まっているわけにはいかず、気持ちが入らないままロックの後を追った。

 

「こんばんは~。飲みに行かな~い?」

女の子2人組はクスっと笑った。

(えっ、こんな声掛けで笑うんだ)

「もう帰ります~」

黒髪ショートの女の子が言った。

「え~、まだ早くない?1杯だけ飲んでこうよ。一杯だけ」

「ダメですよ~、この子彼氏いるんでw」

そう言って、黒髪ショートの女の子は、隣にいる大人しそうな、茶髪ロングパーマの女の子を手のひらを上にして指した。

 

大人しそうな茶髪ロングの女の子は、少しだけ微笑んだ。

 

若者はここで、自分でもなぜ言ったのかはわからなかったが、「彼氏いそうですもんね~」と言った。言ってしまってハッとしたが、すぐに黒髪ショートの女の子が、「でしょ~」と返答してくれた。

 

 

茶髪ロングパーマの子は、また少しだけ微笑んだ。

そこですかさずロックが、「君はいないでしょ?」と黒髪ショートの女の子に言った。

「いませんけど何か?大丈夫です。お正月に引いた占いに、今年は運命の出会いがあるって書かれてたんで~」

すごくノリのいい子だった。

 

「それ俺のことじゃない?絶対俺でしょ?」

「いやいやいや~、やめてくださ~いw」

このタイミングで、若者は、会話からポツンと取り残されている茶髪ロングパーマの女の子に声を掛けた。

「君の友達おもしろいね」

「ふふっ。あなたの友達も面白いですねw」

「あぁ~、意外と2人合いそうですよね」

「そうですねw」

 

「すみません。今日は本当に無理なんですよ」

黒髪ショートの女の子が言った。

「じゃあ今度ならいいってことでしょ?こういう出会いって大切よ~。ライン教えてよ」

「え~、でも~」

黒髪ショートの女の子は言った。

「今交換しなきゃきっと後悔するよ?変なライン来たらブロックしていいからwはい、ほらほら、携帯出して」

「私変なライン来たら本当に即効でブロックしますよw」

「気を付けま~す」

そう言って、2人はラインの交換を始めた。

 

若者は、これまた、茶髪ロングパーマの女の子に言った。

「自分も聞いちゃっていいですか?」

若者は自分で言って、先ほど聞いた彼氏がいるという発言を思い出し、ハッとなった。しかし意外にも、

「はい」と即答だった。

 

若者がラインの交換をしている際にも、彼氏がいるということについては、女の子2人組は触れなかった。

「ありがと~。毎日ライン送るから~、ウソウソw」

「すぐブロックしますからw」

 

「なんかありがとうございます。自分全然しゃべってないのにライン交換しちゃいましたw」

「いやいや、ナイスアシストだよ。もう一人のほう気にかけてくれたでしょ」

 

若者は、ロックと出会えてよかったと思った。

 

東京に来て、ロックの次に若者が一緒にナンパしたのは、木島という男だった。彼もロックと同じように、若者のブログ経由でつながった。木島はブログなどはやっていなかったため、ナンパの実力などは不明だったが、ブログを通して若者に送ったメッセージからは、木島の切実な思いが感じられた。

 

木島とは、金曜日の夜に新宿で会うことになった。

 

「こんばんは」と言って現れた木島は、

絵に描いたような【真面目】な男だった。

黒いスーツとメガネという出で立ちの、仕事帰りの41歳のサラリーマンだった。

 

「このままじゃまずいと思ったんですよ」と思ったのが、ナンパのきっかけだった木島は、独身で、セカンド童貞だった。

セカンド童貞とは、童貞ではないが、5年や10年など、長期間にわたってSEXをしていない状態の者を指す。

 

木島はとにかくモテなかった。勤務先は、誰もが知るような大企業だったが、それでも木島はモテなかった。

 

これといった趣味もなく、貯金もありそうだったが、「なんか嫌じゃないですか?」とキャバクラや風俗には興味がないらしかった。

 

ナンパを始めたのは、1年半前らしいが、即はおろか、準即の経験もないようだった。

「ライン交換はあるんですけどね~。つながらないんですよ」

「うまい人のブログ読んだりしてるんですけどね~。ああいうのって、元々モテる人が書いてたりするんで、同じふうにやってもうまくいかないんですよね~w」

若者は、41歳にもかかわらず、ピュアな木島が好きになった。

 

若者と木島は、別々にナンパした。

1人が声を掛けに行き、

失敗すると、元の場所に戻ってきた。

「今日は無視ばかりです」

若者は、そう言って戻ってきた木島のナンパに、いくつか気になる点があった。

 

若者自身、客観的に見たら同じようにうつっているのかもしれないが、若者は、女の子との会話スペースに入った時の、木島のどことなくおどおどしたかんじが気になった。

 

(木島さんは女の子とどんな会話をしているんだろう?)

「木島さんは女の子に何て言って声掛けてるんですか?」

「すごいふつうですよ。すごいタイプの方だったんで声掛けましたって言ってます」

木島のナンパは、いわゆる誠実系に分類されるナンパであった。

誠実系ナンパとは、「すみません。ものすごくタイプだったので声掛けました」などに代表される、比較して丁寧な入り方によるナンパ。若者もこのナンパスタイルを取っている。

 

若者は、木島を見ているとこう思わずにはいられなかった。

やはりナンパの成功には、ルックスや年齢が関係あるのではないかと。

その日、若者は1人と連絡先を交換し、木島は何の成果もなかった。

 

それからというもの、若者がナンパする時には、ロックか木島のどちらかと一緒だった。若者の仲介で、ロックと木島もつながりを持った。

 

ロックは素面の時は人見知りだったが、酒を飲むと大阪のおばちゃんのように、人に絡むようになった。

 

3人そろって、居酒屋でナンパトークをしたこともあった。

 

「ロックさんは特定の彼女は作らないんですか?」

「作らないわけではないんだよ、かと言って、できないわけでもないんだよ。付き合ってもすぐにフラれるんだわwこの前なんか、あなたといてもつまんないっと言われ、一ヶ月でフラれたからなw結局俺にとってナンパっていうのは、自分を偽ることなんだって思う」

「会社なんかでは、俺ナンパしてますよなんて素振り、これっぽっちも見せない。普段街中でかわいい子を見つけても、見ていることしかできない。でもナンパしようって時だけ、今からナンパするぞって時だけ、声掛けられるようになるんだわ。それに俺、ナンパしてる時っていつも酒飲んでるからさ、普段はそんなに女の子と話すことすらできないんだわ…」

そう言ってロックは、少し寂しそうに笑った。

「そうそう、木島ちゃん、俺いいこと思いついたんだけどさ、会社の名刺見せながらナンパするのってどう?木島ちゃんそんなにいいとこ勤めているのにもったいないって。街中のナンパで一番ネックになってるのが何かわかる?ルックスとか学歴とかじゃなくて、不信感だよ。大企業の名刺は、そのネックを一発で解消できる力を持ってる」

酔いが回ったロックは木島に言った。

「会社の名刺ですか?会社の人にバレたらどうするんですか~w職は失いたくないですよ~この歳で」

木島は言った。

 

この飲み会の後、若者はナンパを始めて、初めての即を経験した。あまりにもあっけなかった。

 

時刻は深夜をまわろうとしていた。

今日はもうダメだろうと帰る気になっていた若者であったが、あと1声と思い声を掛けたのが、幸運を引き寄せた。

 

若者はこの時、ナンパの成功とは、実力というよりも、当たりを引くという感覚に近いのではないかと思った。

 

ナンパ仲間との出会いは、若者のナンパに対するモチベーションを上げ、ナンパにおける気づきを与えた。そして若者もまた、ロックや木島に刺激を与えた。

 

ロックのナンパスタイルはどうやら、ソロナンパよりもコンビナンパに向いているようだった。ロックの酒に酔ったナンパは、場を盛り上げるには役に立ったが、冷静に場を見極めるのには足枷になった。

若者は、そんなロックをサポートした。

 

木島からもうれしい報告があった。

 

初めて準即を達成したらしい。

準即とは、出会った当日は連絡先の交換などに留め、後日再会してSEXをすること。

 

木島曰く、飲み会でロックに言われたことを思い出し、半信半疑で会社の社員証を出したところ、女の子の顔色が変わったらしい。本当かどうかはわからない。

 

若者は着実に、ナンパシーンの階段をのぼりつつあった。

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